反物質を閉じ込めて調べまくってしまう理研は、やっぱりすごい!


約1カ月前になりますが、理化学研究所(理研)、東京大学などの国際共同研究グループが、これまでの350倍という超高精度で反陽子の磁気モーメントを直接測定することに成功しました。

理研は既に2011年、欧州原子核研究所(CERN)で反水素原子を1,000秒(16分40秒)実験装置の中に閉じ込めることに成功していました。今回の超高精度な反陽子の磁気モーメント測定も、当時の研究成果の上に成り立っています。

着実に研究が進展していることが分かります。STAP細胞騒動ではたたかれまくった理研ですが、やっぱり理研はすごいですね。何がそれほどすごいことなのか? 以下にご説明します。

反陽子や反水素原とは、反物質の1つです。では反物質とは何か。読んで字のごとく反対の物質です。ちょっと意味が分かりませんかね。(^_^;)

物質は素粒子によって構成されています。同様に反物質は反素粒子によって構成されているものです。

では、反素粒子とは何か。「素粒子と同じ質量とスピンを持ち、素粒子と電荷が反対のもの」です。ちょっと意味が分かりませんかね。(^_^;)

もう少し簡単に書けば、「電荷だけ反対で、その他は素粒子と全く同じもの」です。例えば、電子の電荷はマイナス(-)ですので、反電子の電荷はプラス(+)です。電子と大きさも重さも全く同じですが、電荷だけ違うのです。ちなみに、反電子は通常「陽電子」と呼ばれています(プラスの電子という意味ですね)。

電子は小さく軽い素粒子で、原子核の周り回っています。原子核のほうは、重い粒子が集まっています。陽子などです(陽子と陽電子は違うものです)。プラスの電荷を持つ陽子と同じ大きさや質量で、電荷がマイナスのものが反陽子です。

全ての素粒子には、このように対となる反素粒子が存在するのです。

1個の陽子を原子核として、その周りを1個の電子が回っている原子は水素です。同じように、1個の反陽子を原子核として、その周りを1個の反電子(陽電子)が回っている原子は反水素です。

全ての素粒子に反素粒子があるので、全ての原子にも反原子があるのです。原子が集まれば分子ができ、分子が集まれば物質ができます。従って、反原子が集まれば反分子ができ、反分子が集まれば反物質ができるのです。

通常は、反素粒子も反原子も反分子もひっくるめて、反物質と呼んでいます。

物質と反物質は、ぶつかるとエネルギーに変わってしまい、両者の実体は消滅します。これを対消滅といいます。水素と反水素の構造を見れば、消滅する理由は何となく分かると思います。陽子と反陽子がぶつかって消滅、電子と反電子がぶつかって消滅、全体として水素と反水素がぶつかって消滅です。

アインシュタインの相対性理論から導かれる有名な公式に、

  E=mc2

というものがあります。Eはエネルギー、mは質量、cは光の速度(秒速30万km)です。c2(30万×30万)はすごく大きな値になりますね。従って、計算されるエネルギーは莫大になることが、感覚的に理解できると思います。専門的に理解しなくて、感覚的で十分です。(^_^;)

つまり、質量を全部エネルギーに変換できたら、ものすごい量になるということです。「物質と反物質が衝突すると消滅してしまう」ということは、質量が100%エネルギーに変換されるということを意味します。ですから、ものすごいエネルギーになるのです。

石油などを燃やすような化学反応では、質量は全く変化しません。質量保存の法則として、学生時代に習ったことと思います。化学反応でも多くのエネルギーが得られるものですが(火力発電など)、物質が持っているエネルギーはこんな程度ではないのです。

核分裂では、核燃料の質量の約1,000分の1がエネルギーに転換されています。たった1,000分の1の質量が消滅しただけで、原子爆弾や原子力発電のように大きなエネルギーを得ることができるのです。

前回ご紹介した核融合では約100分の1の質量がエネルギーに転換されます。核分裂よりも巨大なエネルギーが得られることが分かりますね。

物質と反物質の対消滅で得られるエネルギーは、質量が100%転換されたものです。先のアインシュタインの公式で計算すれば、そのエネルギーは核分裂や核融合などの比ではありません。角砂糖1個の大きさの物質・反物質の対消滅で、広島型原爆1個分と同じエネルギーが得られます。このエネルギーを平和利用できれば、ものすごい話です。だから2011年の閉じ込め実験成功は素晴らしいわけです。

そもそも、反物質は物質に触れると消滅してしまいます。ですから、物質で作った容器に保存できません。容器と一緒に消滅してしまいますから。だから、反物質を閉じ込めることが、まずもって必要な技術となるわけです。理研は、独自に開発した磁気瓶というものを使い、反物質が物質と触れないように電磁気で閉じ込めました。

閉じ込めることができれば、そこから反物質を取り出して物質と衝突させることができます。こういったことを制御できるようになれば、莫大なエネルギーを得ることができます。高度な科学文明が築かれるでしょう。そのためにも、反物質の性質を知らなければなりません。今回の超高精度な反陽子の磁気モーメント測定も、その一環なのです。今後の研究に期待したいです。

物質と反物質は対消滅すると言いましたが、その逆の反応もあります。対生成です。宇宙にはエネルギーが充満していますので、そのエネルギーから物質と反物質が対になって突然現れるのです。

宇宙空間は真空ですが、真空とはシーンとして何の動きもない空間なのではありません。物質と反物質が突然に対生成して現れ、それが再びぶつかって対消滅するということを繰り返している、極めて動的な空間なのです。

私たちの周りには、物質ばかりであって、反物質はほとんど見当たりません。もし、近くに反物質がゴロゴロしていたら大変です。触った瞬間に大爆発をして消滅してしまいます。しかし、理論上、物質と反物質は同じくらい存在してもおかしくありません。

もしかしたら、宇宙の遠くの場所には、反物質で作られた世界が広がっているのかもしれません。反物質で構成された反太陽、反惑星、反生物なども存在するかもしれません。反人間もいるかな?

一方で、「宇宙には反物質はあまり存在しない」という仮説もあります。物質よりも反物質の方が、少しだけ寿命が短い場合があるので、宇宙が始まってから長い年月をかけて物質だけが残ってきたという説です。

この仮説を確かめるためにも、理研の一連の実験成功は足掛かりになります。STAP細胞騒動で傷付いた名誉を挽回する意味でも、理研頑張れ!


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