ヒッグス粒子報道の誤りとシックス・シグマ


2012年7月、「ヒッグス粒子の発見」で、メディアも大騒ぎでした。この報道に関してメディアは間違いを犯しましたが、その間違いは訂正されることなく放置されたので、ネット上では間違った情報が今でも踊っています。

当時の報道で多かった表現は、「ヒッグス粒子が99.99998%の確率で見つかった」というものです。例えば、下記のような感じです。

「ヒッグス粒子 未知の探求へ新たな一歩だ」
この発見は、CERNにある全周27キロ・メートルの円形加速器で成し遂げられた。建設費5500億円の巨大施設だ。真空に保ったパイプの中に、微粒子の陽子を光速に近いスピードで飛ばし、陽子同士を衝突させることができる。これを1100兆回繰り返して衝撃で飛び出した破片を詳細に分析し、新粒子を99.99998%の確率で見つけたという。
(2012年7月7日付・読売社説)。

今でもネット上では「ヒッグス粒子が99.99998%の確率で見つかった」という情報であふれています。しかし、「99.99998%の確率で見つけた」とか、「ヒッグス粒子が存在する確率が99.99998%」という表現は間違っています。

正しくは、「ヒッグス粒子がなかったとしたら、0.00002%の確率でしか起きなかったことが起こった」という表現でなければなりません。確率・統計についてよく分かっていない記者が、単純に100%から0.00002%を引いて、「99.99998%の確率で見つけた」と書いてしまったと思われます。

0.00002%とは、「10万分の2」すなわち「5万分の1」です。よって、ヒッグス粒子がなかったとしたら、5万回に1回しか起きなかったことが起こったといっても良いです。

この確率はあまりにも小さいですから、「この結果は統計的に有意である」といえるのです。「統計的に有意」とは、「偶然には起きないだろう」という意味です。つまり、ヒッグス粒子がないとしたら、偶然にそのような実験結果が起きるとは到底考えられないので、「ほぼ確実にヒッグス粒子は存在するだろう」ということです。

物理学の世界(特に素粒子のように実物を確認できない分野)での発見と認定されるには、上の数値が以上でなければならないとされています。

σ(シグマ)とは、標準偏差のことです。高校時代に習ったでしょう? あまり日常生活で使わないので、忘れているかもしれませんが・・・。数式で書くのは控えますが、要は「平均値からのばらつき」です。「平均値からどれくらいばらつきがあるか」ということですね。

そして5σとは、「平均値からの距離が標準偏差の5倍以内に収まっている範囲」のことを示します。3σなら「平均値からの距離が標準偏差の3倍以内に収まっている範囲」です。要は、σの前の数字が大きいほど、多くのデータが収まることになります。逆にいえば、収まらないデータが少なくなるので、「偶然には起きないだろう」という判断になるわけです。

何やら難しくなりましたね。下記のように書いたら分かりやすくなるかもしれません。σと確率の関係を記してみます。

1σ=31.7%
2σ=4.6%
3σ=0.3%
4σ=0.006%
5σ=0.00006%
6σ=0.000000002%

3σよりも4σのほうが、「より偶然には起きないだろう」と考えられるわけです。そして、物理学上の発見を主張するには、5σを要求されているわけです。

5σは、0.00006%(10万分の6)です。ヒッグス粒子発見の主張は、0.00002%(10万分の2)ですから、見事に5σを超えたわけです。だから発表したということですね。

ちなみに、ビジネスの世界では「シックス・シグマ」という用語が一般的になってきました。モトローラ社の製造プロセス改善のために開発された手法です。シックス・シグマとは、当然「6σ」です。6σとは「10億分の2」。製造業ですので、不良品の発生を「10億個に2個」にするという意気込みです。

「意気込み」と強調したわけは、実際にはそんな精度で仕事をするのは不可能だからです。極めて高度な精度を要求される素粒子物理学でさえ5σなのですから・・・。

実際の「シックス・シグマ」手法では、「100万個うちの3.4個の不良品までに抑える」ということになっています(それでも、かなり高い精度ですが)。「6σ」というのは、高度な精度ということの象徴的な表現なのです。製造業だけでなく、いろんな業種に適用して、高度な精度で改善していくことが「シックス・シグマ」という手法です。

なお、ヒッグス粒子に関しては、当ブログでも書いていますので、そちらを参考にしてください(下記)。

なぜあなたの体重は60kgなのか? それは対称性の自発的破れが起きたから


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