不確定性原理に欠陥があると報じた不勉強メディア


前回は、2012年7月にヒッグス粒子発見の報道でメディアが間違ったことに触れました。ついでに思い出したので、同じ2012年1月にメディアが誤って「不確定性原理に欠陥がある」とほざいた報道も書いておきます。

当時の読売新聞(2012年1月16日)から引用してみましょう。

不確定性原理に欠陥…量子物理学の原理崩す成果
電子など小さな粒子の位置や速度を同時に正しく測定することは不可能とする「ハイゼンベルクの不確定性原理」が、常には成り立たないとする実験結果を、ウィーン工科大と名古屋大の研究チームがまとめた。

かなり不正確な記事です。メディアはいつもセンセーショナルに書きますが(というか、そもそも意味を分かっていないのか)、このニュースはそれほど大騒ぎするようなものではありません。

不確定性原理について説明していると長くなってしまいますから、過去に書いた記事をご覧ください。この記事で、不確定性原理の式として下記を紹介しました。

位置の誤差×速度の誤差=h ・・・(1)

実は、これは正確な記述ではありません。なるべく分かりやすくするために簡略化しました。実際の不確定性原理の式は、次のようなものです。

Δq ×Δp ≧ h/4π  ・・・(2)

Δqは物体の位置の誤差、Δpは運動量の誤差、hはプランク定数、πは円周率です。

実際には不等式ですし、速度ではなく運動量ですし、右辺もhだけではないのですが、原理の意味だけ分かればよいと思いましたので、(1)のように書きました。

特に運動量って、一般には分かりにくいです。運動量=質量×速度なので、思い切って簡潔に「速度」と記しました。質量は変わりませんが(厳密にいうと相対性理論の効果で変わるんですが)、速度は変化しますから、速度だけ記しました。

さて、量子力学の研究が進みますと、観測しようがしまいが物体にはもともと「量子ゆらぎ」があると分かりました。物体は、人間が観測しなくても、最初から「ゆらぎ」を持っていて、位置と運動量(速度)はもともと不確定だというのです。この点は、不確定性原理を導いたハイゼンベルクも明確に分かっていませんでした。

名古屋大学の小澤正直教授は、この部分を明確にしたわけです。観測によって生じる「ゆらぎ」と、物体がもともと持っている「ゆらぎ」を峻別して不等式を導いたのです。しかし、読売新聞の見出しのような「量子物理学の原理崩す」ということではありません。「原理を覆す」どころか、逆に「原理に則って」、すなわち量子力学の基本原理(シュレーディンガー方程式)から導いたものです。

小澤教授が導いた式は下記の通り。これを「小澤の不等式」といいます。

Δq×Δp + Δq×σp + σq×Δp ≧ h/4π  ・・・(3)

ハイゼンベルクの式に、「Δq×σp + σq×Δp」の項が加わりました。σpが「もともと持っている運動量の『ゆらぎ』」、σqが「もともと持っている位置の『ゆらぎ』」です。

ご覧になれば一目瞭然(じゃない?(^_^;) )ですが、やっぱり不確定なのです。「物体は観測によって位置と運動量(速度)が不確定になるし、そもそも観測以前から位置と運動量(速度)が不確定なんだよ」と、この式は言っているわけです。

ただし、うまく観測すれば、トータルの不確定性をゼロに近づけることができます。そういう可能性を提示している点で、小澤の不等式は注目されてきたのです。

例えば、Δp=0(運動量の誤差をゼロにする)と、ハイゼンベルクの式では、Δq=∞(位置の誤差が無限大)になってしまいます。運動量(速度)をはっきり知ろうとすると、位置が全く分からなくなるということです。

ところが小澤の不等式では、Δp=0にしても下記が残ります。

Δq ×σp≧ h/4π  ……(4)

したがって、σp(もともと持っている運動量の『ゆらぎ』)が「かなり大きい場合」には,Δq(観測による位置の誤差)を「かなり小さくできる(位置を極めて明確に知ることができる)」というわけです。

そのことが実験で確かめられたということなのです。しかし、これはあくまでも「不確定性原理の拡張」であって、「不確定性原理の欠陥」を証明したことにはなりません。いわんや、量子力学が破たんすることもありません。

今回の検証で、量子力学の本質である「物体の位置と速度は不確定である」ことが変わったわけではありません。「不確定性原理の欠陥」とか「量子力学の原理が崩れる」とか、全く意味を理解していない記者が書いているとしか思えません。

そういうことがセンセーショナルなのではなく、むしろ「本質的に不確定性を有している物体を、観測をうまく工夫することで人間が確定できる」ということが分かった点に驚嘆するべきでしょう。あるいは「不確定性を有する物体を、人間が制御できる」ということが分かった点に感動するべきです。

思いっ切り宗教的に表現すれば、「確率の波で宇宙を満たした創造主の神様が、人間に『観測行為を通して第2創造主になることができる立場』を与えていた」ということです(それだけ人間の観測行為はすごいということ)。しかし、それはハイゼンベルクの不確定性原理からも言えることであって、小澤の不等式は「どうやって確定できるのかという技術論、方法論を明確にしてくれた」と言えましょう。

今日はちょっと専門的な表現になってしまいましたが、これ以上は簡潔に書けません。ご容赦ください。(^_^;)

ともかく、何事においてもメディアが言うことは決してうのみにしないよう、くれぐれもご注意ください。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*