夢の量子コンピューター



Googleは、現在のコンピューターの性能をはるかにしのぐ量子コンピューターを開発していますが、2017年末までに49量子ビットのチップを製造するということです。

量子コンピューターの基礎は、セルジュ・アロシュ教授(フランス)とデビッド・ワインランド博士(アメリカ)によって築かれました。彼らは「量子物理学に基づく超高速コンピューターの構築に道を開いたこと」という理由で、2012年のノーベル物理学賞を受賞しています。

量子力学(量子物理学)については拙ブログで説明しておりますので、下記をご参考にしてください。

ぼくらの運命は決まっているのか? 科学的に考えるとこうなる!
「観測は創造だ」 by 量子力学
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量子コンピューターとは、このような量子力学の特性を利用したコンピューターです。現在のコンピューターとの最大の相違点は、計算容量と計算速度です。それはもう、現在のコンピューターとは比べ物にならないほどの大容量の計算が、比べ物にならないほどの速さで行なえるようになります。

現在のコンピューターは、単純に言えば「1」か「0」、もしくは「オン」か「オフ」という、2種類の状態を持つスイッチの集合体です。個々のスイッチのことを「ビット」という単位で数え、CPU(中央演算装置)の処理能力を示す指標にしています。1つのビットが一度に表せるのは「0」か「1」のどちらかだけです。まあ、当たり前の話に聞こえますね。

しかし、それは現在のコンピューターの話であって、量子コンピューターは異なります。量子コンピューターでは個々のスイッチを「量子ビット」という単位で表します。「量子ビット」は、同時に「0」と「1」の両方の状態をとることができるのです。

「1ビット」では「一度に表わせる状態は1つだけ」なのに、「1量子ビット」では「一度に2つの状態を表すことができる」ということです。ですから、ビット数を増やしていけば、現在のコンピューターと量子コンピューターの差はどんどん広がっていきます。

例えば、CPU が8ビットのパソコンの場合、一度に表現できる状態は8個の「0」または「1」で示されます。例えば、「00101001」というようになります。CPU が16ビットならばその倍、例えば「0010100100110010」が一度に表現できますから、8ビットのパソコンよりも計算処理能力が高いわけです。しかし、それでも「0」と「1」の状態は「1通り」しか示せないことに変わりありません。

ところが、「8量子ビット」の量子コンピューターは、「00000000」から「11111111」までの全ての状態(この場合256通り)を、同時に表現できるわけです。

どうしてこんな不思議なことができるのかというと、不確定性原理があるからです。「量子(極微の物体)は位置と速度を同時に正確に測定することは不可能」というのが不確定性原理。つまり「1通り」だけに決まっていないということです。量子というものは、複数の状態を同時にとるものだということです。これを「状態の重ね合わせ」と言います。

量子ビットが「0」と「1」の2つの値を同時に表現できるのは、この「重ね合わせ」という特徴があるからです。「0」と「1」の「2つの状態が現実に成立している」という量子の奇妙な振る舞いを利用できれば、とんでもない大容量で高速のコンピューターができるのです。現在のスーパーコンピューターなど、足元にも及びません。

量子として振る舞うには、当然、小さな存在でなければなりません。分子では大きくて量子にならないでしょう。少なくとも原子(あるいはイオン)、電子、光子というくらいの小さな存在が量子として振る舞います。つまり、量子コンピューターのCPUは原子とか電子とか光子になるわけです。

ものすごく小さいですね。極端に言ってしまえば、「原子や素粒子に計算をさせる」ということになります。ですから、超小型で超高性能のコンピューターということになります。広い部屋に置かれている現在のスーパーコンピューターと同じ性能の量子コンピュータは、手のひらサイズになると言われています。スーパーコンピューターが数年がかりで行う計算を、量子コンピューターはたった1秒で終えると言われています。ものすごいことです。まさに夢のコンピューターです。

むろん、まだ量子コンピューターは実用化されていません。しかし実験用には、2007年に「4量子ビット」の量子コンピューターが、素因数分解(ある数値を与えて、それを素数に分ける計算)を成功しています。

では、アロシュ教授とワインランド博士は何をしたのかというと、量子をしっかりと制御できる方法を開発したということです。

アロシュ教授は、光子を制御する方法です。長くなるので詳しく説明できませんが、光子を制御するのって、大変ですよ。なぜって、光子とは「ひかりのつぶ」ですから、飛んで行ってしまいます。そんな光子を装置の中に閉じ込めて、「状態の重ね合わせ」を作ることに成功したのです。

ワインランド博士は、イオン(ほぼ原子と同じ)を制御する方法です。イオン6個を一度に制御して、「状態の重ね合わせ」を作ることに成功したのです。

これらの技術があるので、量子コンピューターの研究がスタートできたのです。基礎研究という意味では、日本の山中教授のiPS細胞と同じですね。今後の開発に期待します。夢の世界も、もうすぐかもしれませんね。


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