いまだに信じる人が絶えない疑似科学のホメオパシー


まだこんなことをやっているのか~、と愕然とする記事を読みました。いわゆるホメオパシーというやつです。

「狂犬病の犬の唾液で粗暴な子どもたちを治療した」ホメオパシー専門家に批判殺到! 問題のレメディ「Lyssinum」は日本でも販売!

子どもの問題行動に手を焼いている親は大勢いるが、カナダではそのような子どもの「治療」に狂犬病にかかったイヌの唾液が用いられたと大問題になっている。自然療法家のブログに端を発する騒動は、地元自治体の公衆衛生当局が抗議声明を発表する事態にまで発展し、カナダのニュースメディアでも大きく報道されている。(中略)

母親の話や男の子の行動から、ジマーマン氏は問題行動の原因は過去にイヌに噛まれたことだと診断した。ホメオパシーの考え方によれば、動物に噛まれてまるで狂犬病にかかったかのように興奮したり暴力的になったりする症状が起こることは十分にありうることなのだそうだ。

男の子には「Lyssinum」という狂犬病にかかったイヌの唾液を何回も希釈して作ったレメディ(ホメオパシーの治療で使われる錠剤)が処方された。この治療により少年は落ち着きを取り戻し、オオカミのように唸ったり暴れることもなくなり、睡眠も改善したという。(中略)

今月16日付のカナダ「CBC News」の記事によれば、カナダではホメオパシーは医療として認可されておらず、治療に使う物質の安全性については国が基準を設けて規制している。だが、今回の事態を重く見たブリティッシュ・コロンビア州の公衆衛生当局は重大な懸念があると表明し、カナダ保健省に対して危険な製品を認可していることに抗議したという。

ホメオパシーとは、病気の原因と同様の症状を引き起こすものによって、症状を取り除こうとする手法です。わずかな物質を水で何度も薄めたもの(これをレメディーといいます)を飲んで治療するのだといいます。何度も薄めても、水はそれを記憶しているから効果が出るのだとか主張しています。

しかし、科学の世界では、この考えは疑似科学(にせ科学)だと判定されています。ホメオパシーを信じて通常の医療を受けずに、命が危険にさらされたら大変です。カナダでもそうですし、日本でもホメオパシーを医療としては認めていません。日本医学会は、2010年8月25日に下記のような声明を出しています。

「ホメオパシー」への対応について

最近の日本ではこれまでほとんど表に出ることがなかったホメオパシーが医療関係者の間で急速に広がり、ホメオパシー施療者養成学校までができています。このことに対しては強い戸惑いを感じざるを得ません。

その理由は「科学の無視」です。レメディーとは、植物、動物組織、鉱物などを水で100倍希釈して振盪(しんとう)する作業を10数回から30回程度繰り返して作った水を、砂糖玉に浸み込ませたものです。希釈操作を30回繰り返した場合、もともと存在した物質の濃度は10の60乗倍希釈されることになります。こんな極端な希釈を行えば、水の中に元の物質が含まれないことは誰もが理解できることです。「ただの水」ですから「副作用がない」ことはもちろんですが、治療効果もあるはずがありません。(中略)

ホメオパシーの治療効果は科学的に明確に否定されています。それを「効果がある」と称して治療に使用することは厳に慎むべき行為です。

この声明は、2010年当時の日本学術会議(内閣総理大臣に任命された210人の科学者・研究者で構成)金澤一郎会長、日本医師会・原中勝征会長、日本医学会・髙久史麿会長という、科学界・医学界の重鎮が、「ホメオパシーは科学的根拠がなく、治療効果もない」と公式に認めたもので、とても重いものです。このように、ホメオパシーが疑似科学であることは、科学の世界では常識です。

ホメオパシーの考え方は、マーティン・ガードナーという数学者の「奇妙な論理」という著書で1952年に完全否定されました。邦訳版は1980年に出ています。つまり、日本では少なくとも30年前に「ホメオパシーは疑似科学」だと伝わっているのです。私も学生時代(1985年)にこの本を読んで、すでに「ホメオパシーは疑似科学」だと知っていました。

最近になって日本でホメオパシー・ブームが再燃した理由は、「水からの伝言」という話の中で取り上げられたからです。迷惑な話です。

しかし、今回のカナダの騒動を見ても、疑似科学って廃れないのだなあと実感しました。人間は、科学的ではないといわれているものでも信じる生き物なんですね。それはそれでかわいらしい生き物だと思いますけれども、生命の危険を冒してまで信じるものでもありますまい。ほどほどにしたいものです。


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