自分の母親が3人出現することを可能にしてしまった生殖補助医療は是か非か


母子の手
がん発症し高2で卵子を凍結保存、13年後出産」という報道がありました。大変考えさせられる出来事です。

女性は高校1年時に血液がんの悪性リンパ腫を発症。抗がん剤治療で不妊になる恐れがあった。そのため高校2年になった2001年に(中略)卵子を2個採取し、凍結保存した。(中略)昨年結婚し、解凍した卵子2個と夫の精子で体外受精を行った。子宮に戻した受精卵1個で妊娠することができ、今年8月、3295グラムの男児を出産した。

かつて不妊治療といわれていた医療行為は、最近では生殖補助医療と呼ばれています。科学技術の進歩によって、さまざまな種類の生殖補助医療が生まれ、実行されています。上記新聞記事も、そのうちの一つです。

生殖補助医療の中に代理懐胎というものがあります。いわゆる代理母です。子宮に障害があって子どもを産むことができない女性が、他の女性の子宮を借りて出産してもらう方法です。通常は、自分の卵子と夫の精子を体外受精させて、代理母の子宮に着床します。

日本では現在、日本産科婦人科学会の自主規制として代理懐胎を禁じています(法律は未整備)。ただし、それに従わない少数の医師は代理懐胎を実施しています(法律はないので犯罪ではない)。それでも日本では大多数の産婦人科医で代理懐胎をしてくれないので、代理懐胎を認める国で子どもを授かってくる不妊の女性も多いのが実状です。

しかし、卵巣にも異常があって、卵子すら採取できない場合もあります。そのときは、他人の卵子と夫の精子で体外受精をして、代理母に出産してもらうのです。外国では、凍結保存をした卵子を購入することができる「卵子バンク」なるものまであります(むろん、そういう国には精子バンクもあります)。この場合、生まれた子どもの母親が3人になってしまうことが懸念されています。

1、卵子を提供した母。(卵子の母、DNAの母)
2、代理懐胎して出産した母。(産みの母)
3、子どもを引き取って育てる母。(育ての母、法的な母)

生殖補助医療をした機関には守秘義務がありますから、あとは3の母(と父)が沈黙を守れば、成長した子どもは3の母こそ「本当の唯一の母」だと信じて生きることでしょう。

しかし、代理懐胎などを積極的に認めている国では、同時に「子どもが出自を知る権利」をも認めているのです。つまり、自分がどうやって生まれたかということを知る権利です。成人した子は、自分の出生の顛末を知りたければ情報開示請求ができるのです。その結果、自分に3人の母親が存在することを知り、強烈なアイデンティティークライシスに陥るケースも増えています。

「子どもを持って母親になりたい、幸せな家庭を築きたい」と願うのは、女性として当然の権利です。ですから、生殖補助医療を全く禁止して、自然な妊娠以外を許さないという国はありません(日本ですら制限付きで認めています)。しかし、それに伴って、今まで人類が経験したことがない倫理的な問題に直面していることも、また事実です。

とても難しい問題です。すぐに答えは出せないでしょう。でも、未来の子どもたちのためにも、技術を使うわれわれがしっかりと考えなければいけない問題だと思います。


自分の母親が3人出現することを可能にしてしまった生殖補助医療は是か非か” へのコメントが 1 点あります

  1. 倫理うんぬん言うこと自体、間違い。

    第一に考えるべきは、倫理でもなく法整備でもなく宗教観でもなく、子供のこと。

    将来、子供が物事を考えられる年齢になってから、たとえ間接的であっても[お前の存在は倫理的に問題があるかも知れない]と言われたら、どう思うか。

    自分がその立場だったらどう思うのか。

    「はいはい、自分は試験管の中から産まれましたよ。この産まれ方は倫理的に間違ってますね、はいそうですね」
    って開き直れるか?

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