本当は怖いかもしれない安心・安全な野菜


野菜
日曜日に、妻とショッピングを楽しみました。こう書くと、衣服とかアクセサリーなどを選びながら、楽しくデートしたように読めます。しかし実際には、日々の食料品を近所のスーパーへ買い出しに行っただけです。

新婚当時は、毎週日曜日、1週間分の食料を買って帰ってくるのが決まりのようになっていました。当時、妻は自動車の運転免許を持っていませんでした。わが家がある地方都市では、公共交通機関が充実していません。自動車がないと、女性にとっては重い食料品を買って家まで持ち帰ることは困難です。冬は重い灯油も必需品ですが、これなども自動車がないと女性には運ぶことが苦痛です。

そんな事情もあり、週に一度、ぼくの運転で一緒に食料品などを買いに出掛けていたわけです。長女が生まれてから、妻も運転免許を取得しました。それからは、こういう日曜日の買い出しはなくなりました。

おっと、昔話が長くなりました。先日のショッピングに話をもどします。数年前、大病したぼくの身体を気遣ってくれる優しい妻は、野菜売り場の有機野菜の所で立ち止まり、何気なく言いました。

「有機野菜って、身体にいいわよね」

「いや、そうでもないんだよ」とぼく。

妻は、「しまった。また理屈が始まる・・・」という顔になりました。ぼくもその顔に気づいていましたが、ダメなんですねえ。話し始めると止まらないのです。

「有機栽培っていうのは、堆肥(たいひ)を使うんだけれども、この堆肥がどうやってできているのかが問題なんだ。大きく分けると、家畜の糞尿が原料の堆肥、生ごみが原料の堆肥、植物(落ち葉や稲わらなど)が原料の堆肥がある」

食品売り場でウンチや生ごみやの話をしだすから、もう妻はしかめっ面です。しかし科学オタクの悲しいサガ。一度理屈を話し出すと、論理が完結するまで止まらないんです。

「家畜の糞尿が原料の堆肥は、危険性がある。銅、亜鉛などの重金属が混入している可能性があるからね。生ごみが原料の堆肥も、危ない。油分が結構多いからね。植物が原料の堆肥が、一番安全。だから、単に有機野菜っていう名前だけで買うことはやめた方がいいよ。堆肥の原料が書いていなかったら、かえって農薬を使った野菜の方が安全と考えたらいいよ。農薬は法的にちゃんと成分が決まっているけど、有機栽培には厳しい規定がないから。ほら、前にも言ったけど、水道水とペットボトルのミネラルウォーターのどっちが安全かといったら、水道水。水道水は、含有物質の成分濃度が法的にちゃんと決まっているけど、ペットボトルのミネラルウォーターには規制がない。それと同じようなもんだね」

妻は「あ、そうなのね」と、半分は聞いていないくせに相槌を打って、違う売り場へ移動しました。

「泥つき野菜があるわね。こういうのは新鮮よね」

「っていうか、新鮮じゃない泥つき・・・、つまり収穫されてから泥が付いている時間の長い野菜は危険だよ。土の中ってバイキンがウジャウジャいるからね。誰も土なんて舐めないだろ? それくらい土は汚い。野菜が土に埋まっているうちは生命力があるけど、こういうふうに引っこ抜いちゃうと、ほとんど体力がない状態だから、そういうところに泥を付けっ放しにしておくと、野菜がバイキンにやられちゃうんだ。だから、店に持ってくる前に泥を洗い流すほうがいいんだよ。『泥つき野菜は新鮮』なんていう宣伝文句に踊らされてはいけないぞ」

もう、半分呆れている妻は、無言で次の場所に移動しちゃいました。「規格外野菜」というものがありました。形が悪い分、安くなっています。

「これ、安くっていいわね。形は良くなくても、中身は一緒だもんね。安いのを買おうか」

もう、ぼくの健康のことは考えないようにしたようです。

「ああ、ダメダメ。『形は良くなくても中身は一緒』っていうのは嘘。美しくまとまっている形こそ、本来の姿なんだ。つまり、健康な野菜は美しい形をしている。同じ種類の野菜は同じ形をしているってこと。ここにあるような、同じ種類の野菜で形が異なるものは、何か問題がある可能性、不健康である可能性があるんだ。健康な野菜は、見た目が良い、素直に育ったものだよ」

「あーあ。あなたと一緒に買い物にくると、何も買えないじゃん。結局、買える野菜はないわけ?」

「いや。今まで説明したものだって、危険性があるだけで、本当に危険かどうかは分からないよ」

「でも、そんなこと言われちゃったら、買えないよぉ~」

「まあ、一番危険性の少ない、安全だと思われる野菜は、水栽培されたものかな」

「水栽培?」

「そう。土に植えないで、水だけで育てるやつ。カイワレダイコンとかモヤシとか、最近じゃあブロッコリーとかレタスなんかも水栽培でやられているみたい。お米も水だけで育てようという動きもあるよ」

ちょうど目の前にカイワレダイコンとモヤシがあったので、日曜日の野菜の買い物はそれだけになりました。妻が迷惑そうにしていたので、それ以上ショッピングに付き合うことをやめ、併設された本屋さんへ行きました。

疲れる夫で、すみません。

以下は、妻との会話には出てきませんでしたが、ここまで書いちゃったので、ついでに殴り書きです。

まず、「有機野菜は安心・安全だから、収穫したその場で食べられます」という話にホイホイと乗って、その場でガブリとやるのは危ないからやめてください。有機肥料には、家畜の糞が入っているかもしれません。家畜の糞の中には重金属のほかに、寄生虫、抗生物質、O-157などの細菌が入っている可能性があります。洗って食べてください。

もう1つ、「ミミズがいる土だから安心・安全」という話です。土壌を改良してくれるミミズはフトミミズと言います。フトミミズは土を食べて、良い土に変えます。このミミズがいる土は、確かに安心・安全です。

しかし、もう1種類、有機物を食べるシマミミズがいます。土を食べないので、土壌を改良しません。シマミミズがいる土は、生の有機物でいっぱいになっている証拠です。「生の有機物」とは、堆肥になっていない有機物、つまり乾いていない糞など。シマミミズが増えた有機野菜の畑は危険です。

最後に1つ。「虫食いがある野菜は、農薬が入っていないから安全」というのは、正しくありません。植物がかかる病気のほとんどは、カビによるものです。そのカビ病を媒介するのが昆虫です。虫がかじった跡にカビが生え、病気が発生します。

カビが出すカビ毒は、人体にとっても脅威となります。代表的なカビ毒と、それによって引き起こされると考えられている症状は、下記のとおりです。

アフラトキシン・・・肝臓障害、肝臓ガン
オクラトキシン・・・腎臓障害
デオキシニバレノール・・・消化器障害、免疫障害
パツリン・・・臓器出血

以前、三笠フーズという会社がカビ毒に汚染された米を食用に売っていた事件がありました。大問題になったわけは、カビ毒が人体に及ぼす影響の大きさ故です。毒入りギョウザで有名になったメタミドホスという薬品よりも、カビ毒のほうが怖いのです。メタミドホスは熱すれば蒸発しますが、カビ毒は熱に強く、残留しやすいです。

野菜のカビ病を防止するために、その原因たる虫を排除する農薬を使うのです。そして、今の農薬の成分は法規制があるので安全です。「農薬=悪」という等式も、「有機野菜=善」という等式も、必ずしも成立するものではないのです。いつも常識が正しいとは限りませんので、注意しましょう。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*