モーセの奇跡を科学的に考えると、火山噴火の恐ろしさが見えてくる


桜島噴火
先月、地震や津波よりも怖いのは火山噴火だという記事を書きました。そこでは太古より火山噴火が恐れられてきた例として、『旧約聖書』に出てくるソドムとゴモラの町の壊滅の物語を示しました。

実は『旧約聖書』にはもう一つ、火山噴火の話が出てきます。それは『十戒』という映画にもなった、有名な『出エジプト記』です。ソドムとゴモラの町の壊滅の物語と同様に、ここでも明確に火山噴火とは書かれていないのですが、現在の科学者たちは概ね火山噴火が起きたと考えています。

『出エジプト記』は、エジプトで奴隷として生活していたイスラエル民族をモーセが解放していく物語です。伝統的に考えられてきた、モーセ一行の出エジプトの推定ルートは、下記の青線です。

出エジプト

詳しくは『旧約聖書』の『出エジプト記』を読んでください。ここでは「モーセの奇跡」ともいわれている、『出エジプト記』で書かれている印象的な現象を列記してみます。

<十災禍の奇跡>
・ナイル川の水が血に変わり、魚が死滅した。
・カエルが大発生した。
・ブヨが大発生した。
・アブが大発生した。
・イナゴが大発生した。
・疫病で家畜が全滅した。
・かまどのすすを天に撒くと、人や家畜にうみの出る腫れものができた。
・雷と雹(ひょう)が降り、火が瞬いた。
・暗闇に覆われた。
・エジプト人の初子、家畜の初子が死滅した。

<その他の奇跡>
・モーセ一行は「火の柱」と「雲の柱」に導かれて、荒野を進んで行った。
・モーセが手を差し伸べると、激しい東風が吹いて、紅海が割れた。一行は割れた海を進んで対岸に着いた。追ってきたエジプト軍は、割れた紅海を歩いている最中に、海が元に戻り、全滅した。

これらの奇跡は本当に起きたのでしょうか?

『出エジプト記』の時期は、古代エジプト第19王朝3代目の王ラメセス2世(BC1290年~24年:ただし『出エジプト記』ではパロという名前)の時代だといわれています。実はこの頃、地中海のサントリニ島の火山が大噴火しています。モーセの奇跡は、実はこの火山の噴火によるものだと、科学者たちは考えています。

噴火は「雷と雹」の発生を促します。「暗闇」や「かまどのすす」は火山灰でしょう。地中海東部は、夏にエテジアと呼ばれる南東の季節風が吹きます。これに乗ってエジプトに火山灰が降り注いだのです。「紅海が割れる奇跡」の前に吹いた東風も、エテジアでしょう。

「火の瞬き」や「火の柱」は噴火、「雲の柱」は噴煙を意味しているのでしょう。モーセ一行は、何もない荒野の中で、遠くに見える噴火・噴煙を羅針盤のようにして進んで行ったのではないでしょうか。

カエル、ブヨ、アブ、イナゴの大発生は、火山の噴火に伴って、しばしば起きる現象です。危険な場所から動物たちが避難するために、大移動が起きるのです。

火山ガスが雲に取り込まれると、酸性雨が降ります。酸性雨は地中のコバルトを海や川へ流し出し、プランクトンの赤潮を大発生させ、魚から水中の酸素を奪います。ナイル川を血のように赤く染め、魚を死滅させたのは、この赤潮だと思われます。

「うみの出る腫れもの」を症状にもち、太古から存在する病気といえば、ペストです。「疫病や初子の死」は、大発生したブヨなどの虫を媒介として、ペストが広まったためでしょう。

「紅海が割れる奇跡」の要因も、サントリニ島の大噴火が有力です。サントリニ島の地形を見れば明らかなように、カルデラとなっています。カルデラとは、大噴火によって大量の溶岩が吐き出され、火山の内部が空洞化したものです。その空洞部分に海の水が入り込んだ状態が、地形から読み取れます。

引き潮恐らくカルデラができた直後は、海の水は入ってこなかったのでしょう。しかし、残った山の状態が不安定だったので、海の水圧に耐え切れなくなり、噴火からしばらくして山が崩れ落ちます。続いて、大きな空洞に海水が一気に流れ込んだため、地中海沿岸に急激で大規模な引き潮が発生し、海が割れたように見えたのです。モーセたち一行は、ちょうどその瞬間に居合わせたのです。

大規模な引き潮の後には、反動で上げ潮、つまり大津波が起きます。モーセたちが渡り終わった瞬間、今度は大津波が押し寄せ、エジプト軍が海水に飲み込まれたというわけです。

しかし、聖書には紅海が割れたと記されています。紅海と地中海の間にはシナイ半島があるので、地中海の引き潮は影響しません。ということは、海が割れる奇跡が起きた場所は紅海ではないはずです。『出エジプト記』に書かれた数々の奇跡がサントリニ島の大噴火で説明できるのですから、紅海という記述に誤りがあると考えるのが科学的です。

実は聖書の原書では、割れた海は「ヤム・スフ」と書かれています。英語に訳すと、「Reed Sea=葦(あし)の海」です。これを「Red Sea=紅海」と一文字間違ったのではないかと考えられます。割れたのは紅海ではなく「葦の海」だったのです。

では、葦の海とはどこか。地中海とつながっており、引き潮の影響を受けるマンザラ湖や、バルダウィール湖が候補とされています。つまりモーセたちは、伝統的な出エジプトの推定ルートよりも、もっと北寄りのコースを辿ったのではないかと考えられます。

『出エジプト記』に書かれた数々の奇跡は、サントリニ島の大噴火によって起きた一連の現象に、ほぼ間違いないでしょう。しかし、モーセが信仰によって神の命令を実行した瞬間と、その物理現象の発生が連結していることは、奇跡と言えるのかもしれません。


“モーセの奇跡を科学的に考えると、火山噴火の恐ろしさが見えてくる” への4件の返信

  1. たまたまたどり着きました。
    モーセの出エジプトは関心がありましたので、このお話は
    目からウロコ でした。

    呪術で奇蹟を起こしたのではなくて、自然の力で
    導かれたことは、とても理解できます。

    この学説で モーセ路程は修正されないのでしょうか。

    • いらっしゃいませ。クリスチャンの人には申し訳ありませんが、聖書の一字一句が正確な記述かどうか分かりません。そういう観点で聖書を見てみると結構いろいろな発見があります。ぼくなどは理系なので、そういう見方が好きです。

      そもそも聖書は矛盾だらけです。出だしの『創世記』から矛盾しています。創造の順番が、創世記第1章1~31では「植物→動物→人間(男女)」、創世記第2章4~9では「男(アダム)→植物→動物→女(イブ)」となっています。

      普通に考えたら、聖書はいい加減な書物となります。それを理性にかなうように解釈するのが科学的な思考ですね。こういう話も面白いので、たまに記事にしてみますね(クリスチャンに叩かれないかなあ)。

      • ご無沙汰しております。

        確かに言われてみれば、聖書には矛盾が多いのでしょうね。そこまで厳密には考えていなかったので。
        ただ、ある牧師から 旧約聖書は 民話 の話が多くノアの箱舟も科学的に言えばあくまでも お話 です。と言われたときは、ショックでした。

        いま、?がつく部分があるとすれば、旧約聖書では神様が直接予言者と話をしているのですが、新薬ではイエス様との会話もありません。そこがどうしてだろう・・・と思ったりします。

        • それがキリスト教の原点じゃないでしょうか。つまり「イエス=イエス」だから、「イエスの言葉=神の言葉」なので、神が登場して人と話す必要がないという・・・

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