理想的な民主主義の実現が不可能なので、得票数で負けたトランプ氏が大統領に就任する


ホワイトハウス
去る11月8日の選挙で、トランプ氏が第45代アメリカ合衆国大統領に就任することがほぼ決まりました。「ほぼ」と書いたわけは、12月19日の選挙人投票で「正式な当選者」となり、2017年1月20日に就任するからです。

アメリカの大統領選挙の仕組みは、あまり日本ではなじみがない選挙人制度というもので成り立っています。選挙人というのは、大統領を選ぶ権限を与えられている人で、アメリカ全体で538名います。各州で選挙人の数が割り振られており、彼らはどちら(今回の場合ならばトランプかヒラリーか)に投票するのか明確にしています。そして各州の一般有権者は、選挙人を選ぶ投票をしています。

つまり一般有権者は、厳密に言うと大統領を選んでいるのではありません。でも、選挙人は必ず表明していた候補者に投票することになっているので、一般有権者が大統領を選んでいるといっても間違いではありません。要は、この選挙人が最終的(12月19日)に投票しなければ、正式に大統領は選ばれないので、冒頭で「ほぼ」と書いた次第です。

ちなみに、選挙人が事前に表明していた候補者に投票しないと罰金が科せられます。1948年から2004年までで裏切った人は9人いるそうです。このように、完全に裏切りを防止できないにしても、ほとんど裏切ることはないと言えるでしょうから、トランプ氏は大統領になるでしょう。

そして、アメリカ大統領選挙で極めて特徴的な仕組みが、勝者独占方式というものです。例えば、ある州の選挙人が10人だとして、トランプ氏陣営が6人、ヒラリー氏陣営が4人の選挙人を獲得したとします。するとその州ではトランプ氏陣営の勝利ということで、10人の選挙人を総取りするという方式です。

なぜ、こんな方法を取っているかというと、アメリカが合衆国、つまり州の集まりであるということにあるらしいです。つまり、まず州ごとに勝者を選んで、最終的に全国で勝者を決めるというわけです。

ですから、たまには次のようなことが起きます。

クリントン氏、得票数ではトランプ氏上回る 米大統領選

CNNの集計(開票率92%)によれば、クリントン氏の得票数は5975万5284票で、トランプ氏は5953万5522票だった。

ただ、これまでの集計では、獲得した選挙人の数はトランプ氏が290人、クリントン氏が232人となっている。

このまま行けば、クリントン氏は2000年大統領選のアル・ゴア氏以来の、得票数では勝ったが大統領にはなれなかった候補となる。

ゴア氏以前を見ると、米大統領選で得票数では勝ったのに落選した候補はアンドルー・ジャクソン、サミュエル・ティルデン、グローバー・クリーブランドの3人の例がある。いずれも19世紀の話だ。

投票した人の数からいうとヒラリー氏のほうが多いのに、選挙の仕組み上、トランプ氏が勝ったということになります。そういう仕組みなのだから仕方ないと言えばそれまでですが、数の上ではヒラリー氏を支持している人が多いのに、そのヒラリー氏が落選するというのも首をかしげざるを得ないです。これでトランプ大統領が民意を反映しているのかというと、ちょっと疑問ですね。

ただし、民主主義で完全に民意を反映する選挙というものは、実は不可能なのです。もっというと、理想的な民主主義の実現は不可能なのです。それを数学的に証明したのがケネス・アローという学者で、彼はこれにより、1972年にノーベル経済学賞を受賞しています。

この理論をアローの不可能性定理といいます。これを説明するのは、本1冊分ぐらいの分量や労力が必要となるので、詳しいことは割愛します。ものすごくザックリ言ってしまうと、「何の束縛も受けずに個人が自由に選べるような理想的な民主主義」を実現しようとするならば、その社会には「必然的に独裁者が存在しなければならない」というものです。

また、1973年にはアラン・ギバードとマーク・サタースウェイトという学者が、アローの不可能性定理を補強する「ギバード=サタースウェイトの定理」を発見しました。これは、独裁者の存在を認めるような選挙システムでない限りは、選挙の戦略的投票行動が可能となってしまうというものです。

戦略的投票行動とは、「何の束縛も受けずに個人が自由に選べるような理想的な民主主義」を否定するものです。個人の自由で意思を表明する選挙ではなく、何者かの戦略によって投票が行われ、選挙結果にその戦略が反映されてしまうということです。よくあるのが「アナウンス効果」で、マスコミなどの事前報道に左右されるというものです。また、自民党と公明党の選挙協力などもそうで、小選挙区制の結果を比例代表に近付けるような戦略的投票行動です。

ともかく、理想的な民主主義はあり得ないことは、1972年に数学的に証明されちゃっているわけです。トランプ氏が大統領になったからといって暴動を起こしているようでは、1972年以前の知的レベルということになってしまいます。アメリカの知的レベルも大したことないなぁと思われないように、冷静な行動を望みます。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*