プロフェッショナル・クリエーターの受難


『「CD買って!」スガシカオが訴え、CDとDLどっちが儲かる?』という記事を読みました。スガシカオさんといえば、NHKの番組『プロフェッショナル』で主題歌を担当しているクリエーターです。自分で歌う曲を作るだけではなく、SMAPのヒット曲を作ったりしている、一流のシンガーソングライターです。そんな人でも制作費を確保することが難しい時代になったということに、少なからずショックを受けました。

武器だけは誰でも一流の時代

ギタリスト
記事では、単価の安いダウンロード販売が増えたため、プロの音楽家にとっては収入が激減し、大変だということでした。買う側にとってはうれしいことなのですが、作る側にとっては死活問題です。

さらに、「打ち込み」と呼ばれる、コンピュータ音源を使った制作手法が、追い打ちをかけているということ。要は、コンピュータさえあれば簡単に制作できてしまうので、制作費が格段に安くなるというわけです。

スタジオで楽器を使って録音するスガシカオさんのようなクリエーターは、そこでも競争に負けてしまうわけです。コンピュータでギターの音を作るのと、本物のギターの音とでは、やはりプロが聞けば違うのでしょうね。こだわりたい気持ちも分かります。

ぼくもプロの映像クリエーターの端くれですが、同じような悩みは常にあります。現在では、コンピュータさえあれば誰もがプロと同等の映像編集(ハード面)を行えます。もちろん、演出などのソフト面までプロフェッショナルになれる保証はありませんが、武器だけは誰でも一流のものを持つことができるのです。

それだけでも、かなり質の高いものはできてしまうので、制作費を安くしたいクライアントなどは、プロに頼むよりも、アマチュアに安くやってもらうようになります。ぼくらプロからすると、企画・演出などのソフト面の価値をもっと評価してほしいのですが、それはお金を払う側にとっては二の次になっています。だから、仕事をゲットするのも大変です・・・。

最後にクリエーターは精神的につぶれます

体育座り
もっと始末の悪いことは、インターネットが普及したことで、音楽にしろ動画にしろ文章にしろ、それらを聴く・観る・読むことが「無料」だという常識が定着した点です。

かつては、音楽を聴くためにはレコードやCDを購入し、映画館で入場料を支払い、ビデオやDVDを購入し、新聞・雑誌・書籍を購入しました。今ではインターネット上で、それらと同じ内容が無料で得られるようになっています。これでは商売も厳しくなるでしょう。

著作権法という法律があっても、映画や音楽を無許可でネット上にアップすることも日常茶飯事です。CDなどのきれいな音源からYoutubeに音楽をアップしている人もたくさんいます。これをダウンロードしてしまえば、自分でCDを買う必要もありません。ダウンロード販売でさえ、実は必要がない時代なのです。

むろん、権利を持つ人が申し入れて削除されていくのですが、いたちごっこです。いちいちネット上を調べて回り、削除申請をする労力も大変です。本来やるべき「クリエイティブな仕事」とは、かけ離れてしまいます。

「ビジネスモデルが変わったのだ。それに対応しなければ生き残れない」という主張はあるでしょう。確かに、いつまでも古いモデルにしがみつくことは良くありません。しかし、「見えないものへの価値を見いだす」ということは、大切にしたいです。

どういうことかというと、例えば動画であれば、5分の作品と20分の作品があるとします。「20分のものを作った時は40万円だったのに、なぜ5分の作品が50万円かかるんですか。長さが4分の1なのだから、金額も10万円になるんじゃないの?」と、ぼくなどはよく言われます。

結局、見えるものは作品の長さだけで、「その作品を作るためにクリエーターがどんな苦労をしているのか」ということは、想像力を駆使しない限り、見えないわけです。見えない部分を一切評価せず、見える部分だけで評価してしまうと、最後にクリエーターは精神的につぶれます。

確かに支払う側は安い方がうれしい、無料ならばさらにうれしい。でも、そういうことを続けていると、プロとして質の高い作品を作る側がいなくなります。アマが質の高い作品を作れないとは言いませんが、本気度は全然違います。プロフェッショナルのクリエーターとは雲泥の差です。

質の高い音楽、動画、文章を失わないためには、見える部分だけを評価する即物的な社会からサヨナラするしかありません。作り手の苦労や思いを評価し、そのことに対してお金を払うことをいとわない社会になってほしいものです。


“プロフェッショナル・クリエーターの受難” への4件の返信

  1. つい最近の話ですが、26ページの学術系の漫画原稿料2〜3万円でお願いできない?と軽く言われ絶句しました。は?って感じ。相場ですと1ページ3万、安くて1万です。仮に26ページ3万円で受けたとして、時給いえば1時間1ページで描き上げてトントンです。そんなに早く奴は化けモンです。ボランティアで描くよりはマシかも知れませんが、これでは絶対によいものは作れませんし、お金をドブに捨ててるようなものです。

    • murapon3さん、いらしゃいません。漫画家の方でしょうか?
      漫画業界もそんな感じなんですね。どの分野もクリエーターつぶしの労働環境になっているんですね。困ったものです。

  2. もう1年前になる記事ですね。お説ごもっとも。わたくし、ほぼ30年前に映像業界に入りましたが、その時見た見積書のディレクター費、ライター費、いまよりいいです。一般社会の新入社員給与、この30年細々とでも右肩上がりなのに、映像業界のギャランティーは、横ばいどころか、右肩下がり。しんどいことです。

    • dwanさん。いらっしゃいませ。そうですねよ。ばくは独立して半年で、映像だけで食っていくことは諦め、違う職種(テープ起こし)を併用することにしました。今では映像よりもそちらのほうが主になりつつあります。

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