神々の怒り? 惑星の名前に隠された、ちょっと怖い元素の命名についての話


宇宙理化学研究所が2004年に発見していた113番元素の名前が「ニホニウム」となることが分かりました。アジアが元素の命名権を持ったのは、今回が初めてです。元素の命名については、ちょっと怖い、次のような話があります。

太陽系の惑星の英語での命名については、実はローマ神話とギリシャ神話に由来しています。

「なんだ? 冒頭では元素の命名の話と言ったではないか?」

そういう疑問はごもっともですが、後にちゃんとつながってきますので、しばらく我慢してお読みください。

と言いながら、今度はさらに太陽系からも離れて恐縮ですが、ギリシャ神話とローマ神話とは何ぞやということを説明します。そうしないと話がさらに分かりにくくなってしまうので、ご了承ください。

もともとはギリシャ神話が先にありました。大体、紀元前15世紀ぐらいに作られたのではないかと考えられています。多くの神さまが登場して、愛憎劇を繰り広げる話です。神さまと言いながらも、極めて人間臭い話です。

ローマ神話は紀元前6世紀ぐらいに作られたといわれています。ローマにも、それ以前に神話がありましたが、ギリシャ神話を積極的に取り入れました。もともとあったローマ神話に登場していた神々と、ギリシャ神話に登場していた神々を対応させていきました。例えば、ギリシャ神話に出てくる主神(神々と人間たちの父であり王)ゼウスは、ローマ神話ではユーピテルと言います。そのような経緯があるので、神々の名前は違っても、ローマ神話はギリシャ神話とかなり似たようなストーリーになっていきました。

やっと太陽系の話に戻ります。太陽系の惑星名を英語で命名するときに、理由は定かではありませんが、ローマ神話とギリシャ神話に登場する神々の名前を、英語表記で付けるようなりました。以下のとおりです。アルファベットが英語名(片仮名が読み方)です。ただし、地球にそういった命名はされていません。

水星 Mercury(マーキュリー):ローマ神話、商人や旅人の守護神メルクリウス。
金星 Venus(ヴィーナス):ローマ神話、愛と美の女神ウェヌス。
火星 Mars(マーズ):ローマ神話、戦争の神マールス。
木星 Jupiter(ジュピター):ローマ神話、主神のユーピテル。
土星 Saturn(サターン):ローマ神話、農耕神サートゥルヌス。
天王星 Uranus(ウラヌス):ギリシャ神話、天空神ウーラノス。
海王星 Neptune(ネプチューン):ローマ神話、海の神ネプトゥーヌス。

天王星のウラヌスだけギリシャ神話からという理由も定かではありません。もともとのローマ神話にウラヌスは存在せず、完全にギリシャ神話からの輸入だったので、一般的には「ギリシャ神話から由来」というのかもしません。また、ローマ神話では、ウラヌスと言ったり、カエルスと言ったり、曖昧な点も多いからなのかもしません。

太陽系惑星の命名にこのような伝統があった中で、1930年に冥王星が発見されました。2006年には国際天文学連合が準惑星という分類にしましたが、それまでは太陽系の第9惑星とされてきました。発見当時の1930年5月1日、これまでの伝統に従って、ローマ神話からPluto(プルート)と命名されました。

プルートとは、ローマ神話の冥界(死者の世界)を司る神です。実は、これもローマ神話のオリジナルには存在せず、ギリシャ神話からの輸入です。ただし、ギリシャ神話ではハーデースと呼ばれています。

さて、やっと冒頭の元素の命名の話に戻ってきました。元素の命名は、長い歴史の中でいろいろな方法が用いられ、特に決まりはありませんでした。そのような中で、原子番号92元素は、同時期に発見された天王星の英語名ウラヌスにちなんでウランと命名されました。続く原子番号93元素は、ウランにならって新しく発見された太陽系惑星にしようということで、海王星ネプチューンに由来したネプツニウムという名前になりました。

その後に発見された原子番号94元素も、同じ流れになりました。当時はまだ惑星の分類であった冥王星プルートにちなんで、プルトニウムと命名されたのでした。このように、単に当時の慣例に従って命名されたプルトニウムですが、よく考えると怖い話でもあります。

プルトニウムは、発見からわずか5年後、原子爆弾の材料に用いられ、長崎に投下されました。広島型原子爆弾はウランを用いていましたが、それよりもはるかに大きな威力を持っているのがプルトニウムを用いた原爆のほうです。長崎のほうが、広島よりも被害が少なかった理由は、長崎の地形によります。平地の広島は爆風が広がりやすかったのですが、長崎は山が多いため、その分、衝撃を抑えられたにすぎません。もし広島と同じ条件の土地に落とされたら、ものすごい被害になっていたはずです。

そういう意味で、まさにプルトニウムは、大量殺戮に用いられることを運命付けられたような時代に発見されたのでした。放射線はもちろん、体内に摂取したときの毒性も強く、2006年に京都大学の小出裕章氏は論文の中で「かつて人類が遭遇した物質のうちでも最高の毒性をもつ」と報告しています。

このように、プルトニウムは人間に死をもたらす、地獄の死者のような元素です。その元素の名前が、ローマ神話で死者の世界を司る神に由来しているというのは驚きです。命名当時はプルトニウムの怖さがそれほど分かっていませんでした。単に、惑星の名前の順番で、半ば惰性で付けられたようなものでした。そのようにして命名された元素が、後に「名は体を表す」というようになってしまったことを考えると、何とも背筋がぞっとする話です。

惑星に名付けられたのが神々の名前であることなどを考えても、何だか「俺らの名前を星ごときに付けやがって」と神々がお怒りで、このような策略をしたように感じてしまいます。もちろん、科学的にはそんなことはなく、単なる偶然の一致ですが・・・。


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