現代のベートーベン、びっくり仰天の大騒動!


タイトルの説明を詳しくする必要はないでしょう。「現代のベートーベン」と呼ばれた全聾の作曲家(と自称していた)佐村河内守さんが、18年もの間、ゴーストライターの新垣隆さんに作曲させていたことが暴露されました。それだけでも驚きなのに、新垣さんが「佐村河内さんの耳が聴こえないと感じたことはない」と語ったものだから、大騒動になっています。

曲には罪がありません

楽譜

ぼくは昨年の3月に放送されたNHKスペシャル「魂の旋律 ~ 音を失った作曲家」(リンク先では、NHKによる番組紹介文が謝罪文に変わっていました)に、たいへん感動した1人です。

まったく耳が聴こえないのに、あれだけ大勢のオーケストラを使う作曲ができてしまうこと、耳鳴りと戦いながら絶対音感を頼りに楽譜を紡いでいくこと、片腕を失ったバイオリニスト志望の少女を支える姿、東日本大震災で親を失った少女のために鎮魂歌を作曲する姿に、涙したものです。

ところが、作曲は別の人が行い、耳も聴こえていたというのだったら、誰しも「騙された」と思うはずです。特に、あのNHKスペシャルに登場していた少女たちが、今どう思っているのか考えると、なんとも辛い気分になります。

しかし、そういう要素をとっぱらって、純粋に曲だけを聴けば、素晴らしいものだと感じます。NHKスペシャルにおいても、音楽の専門家が「どの部分が素晴らしいか」ということを、譜面をもとに解説していました。そういう意味では、新垣さんの力は本物なのだと思います。

曲には罪がありません。素晴らしい曲は、素晴らしいものとしての評価を受けるべきです。

新垣さんは、佐村河内さんが書いた指示書をもとに作曲していたとのこと。つまり、曲のイメージというか着想というか、初めのインスピレーションみたいな部分は佐村河内さんの担当なのでしょう。テレビでどなたかがコメントしていましたが、佐村河内さんがプロデューサー、新垣さんが作曲担当として、初めから2人の共作として発表していたら良かったのかもしれません。

本当に耳が聴こえるのなら大問題です

イヤホン

確かに、曲には罪がありません。たまにシンガーソング・ライターが麻薬をやっていて逮捕されたりしますが、麻薬をやりながら作った曲でも良いものは良いです。でも、人間はそれほど単純に割り切れる動物ではありません。

哲学者のカントによれば、人は感性で知覚し、悟性で整理・統合して、対象を概念として認識します。つまり、「これは素晴らしい曲だ」という概念も、実はぼくらの感性が知覚したことによって形作られたものだということです。

言い方を変えますと、ぼくらの感性・悟性が変わってしまえば、それまで「素晴らしい」と感じていた概念も、「気分が悪い」という概念に変化してしまうということです。

何が言いたいかと申しますと、耳が聴こえないという逆境の中にいる人物が作った曲だから、「素晴らしい」と感じる要素もあったということです。

ぼくなどは前述のNHKスペシャルで、佐村河内さんが苦労しながら作曲する姿に感動したものだから、番組の中で聞いた彼の曲は本当に素晴らしいと感じました。しかし、あの耳が聴こえない中で苦悩しながら曲を作る姿が演技だったとしたら、曲には罪がないといっても、やはりもう感動してその曲を聞くことはカント哲学的にも難しいです。

ぜひABR検査を受けていただきたいです

診察室

でも、佐村河内さんの代理人の弁護士は、「耳が聴こえないのは本当だろうと思っています」と説明し、佐村河内さんの身障者手帳(聴覚障害2級)を確認したそうです。

新垣さんは「佐村河内さんと普通に会話ができた」と言っていますが、代理人弁護士は「新垣さんの唇の動きが非常にゆっくりしているので、彼との間では手話を使わなくても会話が成り立った」と述べています。

う~ん、やはりこの「耳が聴こえるのか聴こえないのか」という件は、きっちり決着をつけていただきたいです。ぼくにとっては、あのNHKスペシャルでの佐村河内さんの姿が、演技だったのか真実だったのかで、彼の曲の聴こえ方が(カント哲学的に)変わってしまうからです。

たぶん、多くの人もそうだと思います。ゴーストライターの件もショッキングですが、まだプロディーサーと作曲家という共作だと考えれば、曲を受け止める感性はそれほど崩れません。でも、聾唖者を装って、それをセールスポイントにしていたとしたら、その嘘を踏み台として世に出た曲は、やはり静かに消え去るべきだと思うからです。

だから、ぜひ佐村河内さんには、公的な場で耳の検査をしてもらいたいです。普通の耳の検査ですと、本人が「聴こえた・聴こえない」を申告する方法ですから、今回のケースでは使えません(本人の言動が疑われているので)。

ですから、ぜひABR検査をお願いします。ABRとは、「Auditory Brain-stem Response(聴性脳幹反応)」の略。本人の申告によって判断する検査ではなく、脳波で判断する方法ですから客観的です。これで本当に「聴こえていない」と判断されれば、代理人が語っているように、佐村河内さんは新垣さんの唇の動きを読んでいたことになるでしょう。

新垣さんは会見で、「佐村河内さんは、自分が作っていった曲を聴いて、それに対する要望を伝えた」とも語っています。でも、これは骨伝導(骨の振動で音を判断する)で聞いていたのかもしれません。NHKスペシャルでもスピーカーに指を当てて聴いたり、片腕のバイオリン少女のバイオリンを触って聴く姿がありました。

本物のベートーベンも、耳が聞こえなくなってからは、口にタクトをくわえてピアノを弾き、骨伝導を使って作曲したといわれています。

あっ、でもそう考えると、NHKスペシャルで映し出された佐村河内さんの作曲法には、違和感がありますね。楽器は何も弾かないで、頭の中だけで音を探し出す方法でした。本物のベートーベンのように、骨伝導を使えばもっと簡単に作曲できたはずです。

まあ、ゴーストライターを使っていたんだから、骨伝導だろうが頭の中で探すのだろうが、関係ないんですけどね。自分じゃ作曲していなかったわけですから。

ともかく、聾唖者を装っていたのかどうかだけは、きっちりしてください。障害者手帳の不正取得は、身障者福祉法違反という犯罪ですから。


“現代のベートーベン、びっくり仰天の大騒動!” への2件の返信

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