ぼくらは海の流れによって生かされている


海
ぼくの専門は水文学(地球上の水循環を研究する分野)ですので、海については詳しいです。海のメカニズムを知れば知るほど、その絶妙さに驚嘆します。

その中でも、ぼくが最も「すごいなあ」と思うのが、海流です。海の水は1ヶ所に留まっておらず、川のように流れています。この流れがないと、地球は大変なことになってしまいます。

赤道付近では、強い太陽光線によって海水は温められます。もし海水が赤道付近に留まり続けたら、やがてお湯のようになってしまうでしょう。

ところが、赤道付近で温められた海水は、北極や南極に向かって流れていきます。この流れは、風によって起きます。専門的には、これを風成循環といいます。海の表面付近の水は、風成循環でグルグルと地球上を巡ることになります。

これによって、赤道から離れた高緯度地方(寒い地方)に温かい海水が運ばれてくるので、生物が生きていけるくらいの気温に保たれます。

運ばれてきた温かい海水は、寒い地方で熱を奪われ、冷たくなります。冷たくなった海水は再び赤道に向かって流れていきます。赤道付近は常に灼熱の地域ですが、冷たい水が流れ込んでくるので気温がそれほど上昇しないわけです。

もし、このような海流の循環がなければ、赤道付近は灼熱地獄、高緯度地方は極寒地獄となり、地球上で生物が暮らせる地域は、ごく狭い範囲に限られるのです。

以上が海の表面の流れですが、実はもう1つ別の海流があります。海の深い部分を流れている海水です。深い部分なので、風で動かされるのではありません。では、何を原動力にして動いているのかといいますと、「海水の密度の差」です。海水の密度は、水温と塩分濃度に影響されます。温度が低く塩分濃度が高いほど、密度が高くなるのです。

大西洋のグリーンランド沖の高緯度では、メキシコ湾流によって南から運ばれてきた海水の温度が下がり、海氷が作られます。氷には塩分が含まれません。つまり塩分が海水中に残ります。したがって、グリーンランド沖の海水は、水温が低く塩分濃度が高くなり、密度は高くなるわけです。

密度が高くなった海水は重たくなるので、海中に深く沈んでいきます。この沈降現象が駆動力となって、深層の海流が生まれるのです。

グリーンランド沖で沈み込んだ海流は、大西洋の底を南下して南極を回って太平洋を北上します。そして、アラスカ沖付近で表層水になり、太平洋、インド洋を通って、大西洋に戻ってきます。1周するのに1000年ほどかかると言われています。

こちらの循環システムは、水の熱量と塩分濃度によって支配されているので、熱塩循環(ねつえんじゅんかん)と呼ばれます。

最初にグリーンランド沖で沈み込んだ海流が、大西洋の底だけを南下するのが、この循環のミソです。グリーンランド沖は北極海ですから、太平洋側へも南下していいはずです。もし、大西洋と太平洋の両方に流れ出ていけば、駆動力が分散してしまうので海流にならず、途中で止まってしまうかもしれません。

ところが、北極海から太平洋側へ抜けるにはベーリング海峡を通らなければなりません。ベーリング海峡は極めて浅いので、深層海流は通ることができず、大西洋側に跳ね返されてしまうのです。これで深い部分の海流は大西洋側だけに流れていくため、力が分散されず、地球を1周することができるのです。

このように海の水は、風成循環と熱塩循環によってかき混ぜられ、地球の気象を制御してくれているのです。


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