霊を科学する(3)コピー人間問題



随伴現象説における第2の難問は、コピー人間問題と呼ばれています。端的にいえば「私」のコピーは、「私」なのか・・・というものです。

ここでいうコピー人間とは、「私」の体を原子レベルまで細かく調べ上げ、「私」と全く同じように原子を配列していくものです。そうすれば外見上はもちろんのこと、脳の構造、ニューロンの配列までも、全て「私」と同じように複製されます。つまり、身体的には完全に「私」のコピーができるわけです。もちろん、現在のクローン技術を用いても、ここまでのことはできませんが、原理的には不可能ではありません。

このコピー人間も、つくられてから何年も経過すれば、当然「私」とは違った心を持つことでしょう。なぜなら、「私」と全く同じ生活はできないからです。「心」の形成には、生活パターンも深く関わるはずです。

しかし、このコピー人間がつくられた瞬間はどうでしょう。その時点では「私」と全く同じニューロンの発火パターンを持っていますから、随伴現象説に従えば「私」と全く同じ心を持っているはずです。ということは、コピー人間も「私」であるということに、なりはしないでしょうか?

問題を次のように考えると、さらに深刻に受け止められるかと思います。

あなたは大金持ちで、妻子にも恵まれ、幸せに暮らしているとします。そのようなあなたが、最近開発されたばかりである原子レベルの複製技術を用いて、コピー人間をつくったとします。すると、誕生したコピー人間からこう言われました。

「もし、あなたが死ねば、私は一生お金に不自由せず、幸せに暮らせます。だから死んでくださいませんか? 大丈夫です。私もあなたなのですから、あなたが死んでも、あなたは死なないのですからね。それどころか、あなたが死ぬことによって、私つまりあなたは、今以上に、とても幸せに暮らすことができるのですよ!」

随伴現象説では、ニューロンの発火パターンで心の在り方が決まるわけですから、コピー人間も当然あなたと同じ心を持つはずです。ですから、このコピー人間のいうことは正しいことになります。つまり、コピー人間もあなたなのです。では、あなたはこのコピー人間の発言に同意できるでしょうか? あなた(コピー人間)が今以上に幸せになるために、あなた(本人)は死ぬことができるでしょうか?

答えは、誰でも「ノー」でしょう。しかし、随伴現象説を認める限り、このコピー人間の発言に異議を唱えることはできないのです。

少々哲学的な話になりますが、この問題は「自己とは何か」ということを突き付けています。脳内のニューロンの発火で自己が決定するのかということです。もう少し難しい言葉で言えば、アイデンティティーは脳内の物理現象で決定されるのかということです。それが「イエス」というのが随伴現象説なのですが、そうするとコピー人間問題のように、感情的には到底受け入れられない話が真実だということになってしまうのです。


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