人間社会のお手本を示す、働くアリと働かないアリの組織論


アリ
アリは働き者というイメージですが、実は「働かないアリ」もいます。厳密いうと「働き出すのが遅いアリ」です。人間社会にもこういう人っていますね。北海道大学大学院の長谷川英祐准教授が、このアリ社会の不思議を解明しました。

分かりやすい対談がありましたから、ぜひ読んでください。ポイントを抜粋します。

「働かないアリ」がいるからこそ、アリの社会は長く存続できるのです。

──そういえば、先生のご研究で、コロニー(巣)の働きアリの中には、まったく働かないアリがいることが分かったそうですね。働きアリは全員がずっと働いているものだと思っていました。

長谷川 そう思うのが普通ですが、実際に働かないアリだけを集めて観察してみると働くアリが現れ、逆に働くアリだけにすると働かないアリが現れることも分かったんですよ。

(中略)

──不思議ですね。一体どうしてそのようなことが起こるのでしょう?

長谷川 「反応閾値(いきち)」が原因です。「反応閾値」とは、仕事に対する腰の軽さの個体差、といったところでしょうか。

──聞き慣れない言葉ですが・・・。

長谷川 人間に例えて説明しましょう。人間にはきれい好きな人とそうでもない人がいて、部屋がどのくらい散らかると掃除を始めるかは、個人によって異なります。きれい好きな人は汚れに対する「反応閾値」が低く、散らかっていても平気な人は高いというわけです。
これがアリの社会では、必要な仕事が現れると、「反応閾値」の最も低い一部のアリがまずは取り掛かり、別の仕事が現れたらその次に閾値の低いアリが・・・と、低い順に作業を行う。つまり、個体間の「反応閾値」の差異によって、必要に応じた労働力がうまく分配されているのです。

(中略)

──なるほど。アリだって働けば疲れるし、回復するまでには休みも必要だということですね。

長谷川 はい。働いていたアリが疲れてしまったときに、それまで働いていなかったアリが働き始めることで、労働の停滞を防ぐ。つまり、働かないアリがいるシステムの方が、コロニーの長期的な存続が可能になるということです。働かないアリは、怠けてコロニーの効率を下げる存在ではなく、むしろそれらがいないとコロニーの存続が危ぶまれる、極めて貴重な存在だと言えます。

要は、アリの中には仕事があるとすぐに働き出す者から、働き出すまでにすごく時間かかかる者まで、いろいろなタイプがいるということです。当然、働けば疲れるので、休まなければなりません。誰かが休むときには、スタートが遅い者が「そろそろやるか~」と働き始めるので、組織がうまく回っていくというわけです。

さらに面白いのが、働かないアリ(働き出すのが遅いアリ)だけを集めれば、組織活動が停止してしまうように思うのですが、そうなりません。その中から早く働き出すアリが現れ、組織はやはりうまく回っていくというわけです。逆もしかりで、働くアリだけにすると、今度は働かないアリが現れるというわけです。

つまりアリは、みんながガンガン働いても駄目だし、みんながのんびりやっていても駄目だと分かっているわけです。組織が形成されたら、働き者と怠け者が一定数現れて、結果として全体がうまく回るようにしているのです。小さいのに、すごいやつらです。

最近の研究では、こんなことも分かってきました。

リーダーの頭脳と集団の腕力、アリの協調行動解明 研究

【7月29日 AFP】アリは、重いものを持ち上げて運ぶための「集団の筋力」と「個体の指導力」とを組み合わせる、驚くべき能力を持っているとの研究結果が28日、発表された。

 英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)に掲載された研究では、昆虫など自分たちよりも大きな物体を力を合わせて運んでいる十数匹のアリの集団が、この活動に参加している1匹のアリから提供される情報を基に、進路を調整できることを確認した。

 この1匹の「リーダー」は、集団が進路から外れたり、「困難を生じさせるもの」の方に向かっていたりすることを何らかの方法で察知し、さまざまな角度から引っ張る力を加えることで、進行方向に必要な変更を合図する。他のアリは逆うことなく、その合図に従う。

(中略)

 さらに驚くべきことに、リーダーを務めたアリが、その行動の10~20秒後には、さらに最新の情報を持った別の新参アリにリーダーの役目を譲り渡すことも確認できた。

1匹では大きな物体を運べないアリですが、大勢で力を合わせていきます。しかし、大勢で動くには、進路を示してくれるリーダーがいなければ、個々があっちこっちに向かってしまって進めません。そういうリーダーがちゃんと立ってかじ取りをしていたとは、いやはや驚きです。

しかも、リーダーは10~20秒ごとに代わっているのだそうです。つまり、「今この瞬間は俺が持っている情報が組織のためなる」と思ってリーダーを買って出て、それに対して他の者は絶対的な信頼を持って従うわけです。すごいことです。さらに、自分の役目が終わったとみるや、さっと潔く身を引き、一兵卒に戻るというのです。感服です。自分の地位にいつまでもしがみついて晩節を汚す人間たちは、アリさんをみならわなければなりません。

働かないアリがいることこそ、アリの社会が健全に運営されていく秘訣でした。人間社会でも、仕事が早い人、遅い人、真面目な人、不真面目な人、理屈で動く人、勘で動く人・・・さまざまなタイプの人がいますが、こういう状態こそ社会が健全な証拠なのでしょう。

組織の中で「こうであらねばならない!」と画一的に締め付けを行うと、うまく回らなくなってしまうのです。リーダーの皆さんは、いろんなタイプの部下がいて、イライラすることもあるでしょうが、「こういうやつがいるからこそ、この組織はうまく回っているのだ」と思ったほうが、精神的もよろしいと思います。アリさんに笑われます。

それと、自分や自分の部下が何か問題を起こして、引責せねばならないと判断したら、いつまでも立場に固執せず、アリさんのリーダーのごとく、潔い引き際を見せてください。そうしてこそ、アリさんも認める真のリーダーです。


“人間社会のお手本を示す、働くアリと働かないアリの組織論” への6件の返信

  1. とても興味深いお話ですね。実際に社長業をされていた管理者様の
    経験ではどうなのでしょうか。
    リーダーが交代しながら作業を進める・・・・に関しては、似たような話で
    渡り鳥が隊列を組んでいるときに、先頭を担う鳥が、交代しながら飛んで
    いる・・・・と、聞いたことがあります。交代する時期、タイミングはなぜ
    わかるのでしょうか。彼ら独自の言語、会話みたいのがあるのでしょうか。

  2. kansukeさん。いらっしゃいませ、

    そうですね。実際に社長業をやっていた経験でいっても、やはり長い期間続けないで交代したほうがいいと思いました。やはりどうしても発想が偏ってしまうので、長期政権は組織にとっては良くないと感じます。

    アリや鳥は人間のように会話しているわけではないでしょう。それこそ本能みたいなものなのではないでしょうか。いわゆる「動物的勘」ですかね。アリの場合は「昆虫的勘」か。

  3. 逆に言えば、会社組織において目先の利益だけを求めるなら、

    ・反応閾値の高い従業員の反応閾値を低くする(成果のあがらない社員を晒し上げなどで精神的に追い詰める)

    ・反応閾値の判断材料が高くなったように見せかける(キャパオーバーの仕事を与える/会社の業績や今期売上がやばいと脅す)

    等すれば、全員働きアリになりますね。

    もう定年間近のお偉いさんの立場からすれば、会社の長い存続よりも、自分の退職金の方が大事ですから、上記のように会社を持って行きたがるかと。

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